7 運命は変わらないけれど

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7 運命は変わらないけれど

莉愛と過ごす日々はあっという間で。 生活に慣れるのにもそれなりに時間が掛かり、毎日莉愛といる日々は幸せで、過去呆然と生きていた自分には気にすることがたくさんで、1日があっと言う間に過ぎていく。 紅葉が色付く頃には近場の公園に紅葉を見に行き。 受験で忙しいからあんまり来れないけど、立花さんがたまに遊びに来たり。 最初のころは、僕のことを少し遠ざけていたけど、話したり、一緒にゲームしたり、打ち解けていくことで段々と仲良くなり、あの時、僕を人殺しと言った事を気にしていたのか、謝ってくれた。 クリスマスイヴには日向達と立花さんも呼んで白々家でクリスマスパーティーをし、クリスマス当日には莉愛と二人でイルミネーションを見に行ったり。 正月には、着物を着て初詣に行き、莉愛の健康を祈ったり。 センター試験の頃になると、莉愛は立花さんの合否にハラハラしたり、 無事大学に合格すると、自分のことのように喜んだり。 バレンタインには、僕はリビングへの立ち入りを禁じられ、莉愛と立花さんがチョコ作りをしたり。初めての手作りチョコに僕は思わず涙ぐんだり。 毎日毎日、騒がしくて、忙しい幸せな日々だった。 ……唯一、莉愛さんの身体が明らかに弱っているのだけが気がかりで、年をまたいでからはそれが如実に現われる。 2月に入ったころには、自宅療養は続けても大丈夫だが、医師に絶対安静を通達され、外出はできなくなり、2月後半には、布団から動くことは難しくなっていた。 日々衰えていく莉愛の身体に、僕は覚悟していたとはいえ毎日泣きそうになっていた。 でも、莉愛は苦しそうにしながらもいつも笑っていて、苦しさを少しでも出さないようにしていた。一番苦しいはずの彼女が頑張っているんだ。僕は涙を我慢し、明るく莉愛と接した。 そして……時は3月15日。僕はある作戦を立てていた。 年が明けてから、僕は少ない時間を使ってバイトをし、お金を貯めていた。 それはこの日、莉愛の誕生日にあるものを渡すためだ。 自分で稼いだお金で、あるものを買って家に帰る。 「ただいま~」 布団で寝ている莉愛の元にいくと、少し不満そうに頬を膨らませていた。 「おかえりなさい……遅いよ~」 帰ってくる莉愛の声は、出会ったあの頃に比べるとかはるかに細く、小さい。 「ごめんごめん色々あってね」 そういいながら僕は鞄を置くと、徐に一つの小さな包みを取り出す。 小さなラッピングされた箱を、僕は莉愛に差し出す。 「誕生日おめでとう」 片膝をついて、僕は箱を差し出す。 「誕生日プレゼント? ……ありがとう」 弱々しい力で嬉しそうに箱を受け取る。 包装をはがし、箱を開けると、中からは指輪が出てくる。 「わぁ、綺麗……」 「……婚約指輪だよ。あんまりお金貯まらなくて、そんなに良いものじゃないけど」 「……バイトしてたの?」 「うん。学校終わった後の2時間ぐらい。週1ぐらいで」 「……いつの間にそんな」 「僕が稼いだお金で買いたかったんだ。……この日に渡したくて」 「嬉しい……ありがとう……本当に嬉しい……」 嗚咽をすることもできず、嬉しそうに笑いながら、莉愛は一筋の涙を流した。 「喜んでもらえてよかった」 嬉しそうにしてくれる彼女をみて、僕も嬉しくなる。 「はめていい?」 「もちろん。僕がつけてもいい?」 「うん! お願いします」 箱から指輪を取り出し、莉愛の左手の薬指にゆっくりと指輪をはめた。 噛み締める様に、左手の薬指を幸せそうにじっと見る莉愛。 「えへへ……まさか……こんな想いできるなんて思わなかったよ……ホントにありがと、亜樹くん」 そんな嬉しそうにする莉愛に僕はもう一度鞄の中をあさる。 「そんな莉愛に、もう一つ、こんなものを用意してみました」 そういいながら、僕は1枚の紙を取り出して見せる。 「これは……婚姻届け?」 「僕の母さんに頼んで、可愛い感じのを用意してもらったんだ」 そういいながら婚姻届けを渡すと、莉愛はじっと紙を眺める。 「で、でもこれ……」 「正式に役場には出せないけどね……僕まだ17歳だし。……記念に書けたらいいなと思って……」 僕は少し照れくさく思いながら、そう提案してみる。 「うん……書きたい! 絶対書く!」 莉愛は嬉しそうに意気込んだ。僕は、喜んでくれてほっとする。 僕たちは調べながら、お互いに婚姻届に名前を書く。 震える手を抑えながら、莉愛さんは名前を書き、印鑑を押す。 僕も同様に名前を書く。 「……苗字どうする?」 欄には、夫の姓にするか、妻の性にするかの項目があった。 「せっかくなら変わりたいなぁ。……東條莉愛かぁ。えへへ……いいなぁ」 「僕が変わったら白々亜樹だね」 「それもいいかも! 亜樹くんが家の人になってくれた感じがして」 「じゃあ、今の状況をそのまま当てはめておこうか」 「そうだね。今はそっちの方が嬉しいかも」 僕は、妻の性にチェックを入れる。 そして、次の項目が、証人の項目だった。 調べてみると、それは成人していれば誰もいいらしく、提出するわけでもないので、 僕は迷うことなく日向を、莉愛は立花さんを判子を持参で呼びつけた。 事情を説明すると、快く承諾してくれる。 「うわ~、なんか緊張するわ……」 と、立花さんははいつになく真剣に書いてくれて、 「まさか高校生で書くとは思わなかったな」 と、日向もちょっと楽しそうに書いてくれた。 「二人ともありがとう!」 嬉しそうにお礼をいうと、完成した婚姻届けを見て、莉愛は相当嬉しかったのか、しばらく眺めていた。 そんな莉愛の様子を見て、立花さんが噛み締める様にいう。 「……本当に良かった。莉愛が幸せそうで」 立花さんからそんな言葉を聞けて、目に涙を貯めているのを見ると、つい感化され、僕も嬉しくなる。 しかし、日向があっけからんとした様子でいう。 「何言ってんだよ。最初亜樹の邪魔してたくせに」 と、既に終わったことを再び掘り起こした。 「なっ! そ、それはもういいでしょ! 私だって……あの時はリアに生きていてほしいって必死だったんだから……」 「あはは……大丈夫だよ。攻めてもいないし、攻められてるとも思ってないから」 と、僕がフォローすると、 「ほ~ら。亜樹くんが言ってるんだからもういいのよ」 なんて調子の良いことを立花さんはいう。 「自分でいうなよ……」 「うるっさいなぁ! 一々うるさいのよあんた! つか、亜樹くん好きすぎない⁉ キモイんだけど!」 「キモイってなんだよ! 男の友情を馬鹿にすんな!」 「友情とか言って、ホントはホモだったりして~!」 「なわけあるか気持ちわりぃ! そうやって直ぐ愛だの恋に結び付けて……これだから恋愛脳は……」 「なんですって!?」 唐突に、二人の騒がしい言い合いが始まる。 僕は、何度か見たこの光景に、不意に思ったことを口にした。 「……なんか最近二人仲いいね」 出会ったあの事はあんなにも仲悪そうだったのに。内容がまるで痴話喧嘩のようだ。 「「いいわけあるか!」」 声をそろえて否定するあたり、逆に肯定してるんじゃないかなと思う。 「亜樹くん知らないの……?」 と、不思議に思っていると、莉愛が意外そうな顔をして僕に聞いてきた。 「……なにを?」 「みーちゃんと日向くん……受験終わってから、よく一緒に出かけてるらしいよ」 と、驚きの話が飛び出してきた。 「そうなの!?」 想像もしてなかったことに、僕は素直に驚いた。 「ちょ、ちょっと! 言わないでよ!」 恥ずかしそうに頬を赤くして立花さんは慌てて莉愛にいう。 「駄目だったの?」 止める立花さんに莉愛は首を傾げる。 「い、いや……そ、それはあくまでも二人の近況を報告しあってるだけで……そういうんじゃ……」 と、尻すぼみな口調で言い訳をするが、 「いいじゃない。お似合いだと思うよ」 と、莉愛さんは嬉しそうに屈託のない笑顔でそう言った。僕も同意だ。 「こ、こんな失礼な奴嫌よ!」 真っすぐな莉愛の顔にさらに顔を赤くし、きっぱりと否定する。 「お前面と向かって否定とかひでぇな……」 と、日向も流石に少し傷付いた反応をする。 「素直になったら? 時間には限りがあるから……素直にちゃんと向き合ったほうがいいよ?」 優しい声でいう。莉愛の言葉には、それは誰よりも凄い説得力があった。 「うっ……」 そういわれしばらく沈黙する立花。 日向の顔をじっと見て、困ったような顔をする。 じっと見てくる立花さんに、日向もじっと見つめ返す。 「……俺は嫌いじゃないぞ」 と、日向はやっぱりあっけなく言葉にする。 「へ!?」 日向の言葉に立花さんは顔を真っ赤にした。 「わかりやすいやつ」 顔を真っ赤にした立花さんをみて、からかう様に日向はにやっと笑う。 「な、なによ……なによ! これじゃ私が好きって言ってるみたいじゃない!」 強く否定すればするほど、その通りだなぁと、思う。 「おめでとう」 「おめでとう」 僕と莉愛さんは、優しく笑って小さく拍手を送って祝福した。 「なんでそういうなるの!? す、好きだなんて言ってないんだから!! もう帰る! 誕生日おめでとう!」 はずかしくて逃げたくなったのか、莉愛へのプレゼントを鞄から雑に取り出し、莉愛の頭の上に小さなプレゼントを置くと、逃げる様に立花さんは去っていった。 「ありがと~」 と、慣れた様子で莉愛はプレゼントを受け取った。……さすが親友だ。 「……日向、立花さんのこと好きなの?」 僕は、立花さんのことは置いておいて、日向に事実を確認する。莉愛さんは、立花さんからのプレゼントの包みを開けていた。 「……最初はまぁ、知っての通りいがみ合ってたんだがな」 思い出しながら日向は語ってくれる。 「お前と莉愛さんの事を話したり、何でもない趣味の話とかたまにはしたりしてな……あんな調子だけど、気が付いたら仲良くなってて、最初から遠慮なしでぶつかってたから、素直に話せる相手になってた」 「じゃあ……」 「……そうだな。素直に考えたら……多分好きになりかけてると思う」 友達が、彼女の友達と恋に落ちる。それを知ると僕はなんだか自分のことのように嬉しくなる。 「……そっか。応援してるよ」 「私も! 二人が仲良くなってくれて嬉しい!」 僕と莉愛さんは、日向の目を見てエールを送った。 「二人にそう言われたら無下にはできないな……しゃあない。あいつの後でも追い掛けるか」 日向は鞄を拾い、「じゃあな末永くお幸せに」と挨拶すると。颯爽と家を飛び出した。 ……そんな風に、思わぬところで嬉しい話があったりと、僕達の生活は、間違いなく幸せで楽しい日々だった。
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