プロローグ 秘密の場所

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プロローグ 秘密の場所

「これから先のお前たちの人生だ。まだ時間があるからと言って適当に考えるんじゃないぞ」 授業後のホームルーム。担任の先生が進路希望調査を配りながらそんな事を言った。 秋が始まりを迎えた頃に突然やってきた、自分の将来を考えさせられる出来事。僕たち高校2年生は、そろそろ進路について考えなければならない。 来年には受験に向けて勉強し、大学に入り、何か職につく。そう言う選択を僕達はしていかなければならない。 僕は3人の友達と、貰った進路表をみながら帰路を歩いていた。 「進路か〜。お前ら将来やりたいこととか決まってるのか?」 僕の前を歩いていた日向輝(ひなた あきら)が空を仰ぎながら、僕達に聞いてきた。 その問いかけに、僕の隣を歩いている真面目な近藤武(こんどう たける)が返す。 「俺は実家を継ぐつもりだ。今も日々家で修行してる」 武の実家は居酒屋。日々家の手伝いをしながら、料理の修行や経営に関する事を学んでいるらしい。 「お前はいいよな。道が決まってるし。考える必要なくて」 羨ましそうに武を見ながら日向は言う。しかし、武は小さく首を横に振って否定する。 「そうとも限らない。時々、居酒屋の経営以外に道は無いものかと考えたりもするぞ」 以外な答えをする武に日向も意外そうな顔をしていた。 「そうなの? なんかしたいことでもあるのか?」 「いや…そうではなく、ただ漠然とふと思うんだ。居酒屋の息子として、代々続いてきた店を引き継げることは光栄だと思う。しかし、もし他にやりたいことやしたいことがあった時、自分はどうなっていたのかと思うだけだ」 武はまじめな表情でまじめにいう。 「……お前そんな成りして細かいよな」 日向はからかうように言う。成りとは武の身体つきのことだ。背も高く、骨格もしっかりしていて、格闘技でもしているかのような見た目をしている。しかし近藤は料理の腕は一流だが格闘技や運動は得意ではない。 「細かくはない。まじめに向き合ってるだけだ」 さも当然のことといった風貌で答える武。そんな二人のやり取りに、僕の斜め前を歩いていた田中陽介(たなか ようすけ)が口を挟む。 「そうだよ~。武の真面目さのおかげで僕達はテストで赤点とらずにすむんだから~」 「それはお前だけだろうが……」 常に赤点ギリギリをさまよってる陽介と一緒にされたくないのか、日向は引き気味に否定する。 「つか、話し戻すけど、お前は将来やりたいこととかないのか?」 話を一区切りつけ、日向は改めて陽介に問いかける。 「俺は大学に行く! そんで~、バイトして~サークル入って、女の子と遊びまくる!」 「遊ぶことばかりじゃねぇか……」 全く考える気のない陽介に日向はまたも呆れる。 「そうではなく、なりたい職業はないのか?」 武が、真面目に質問を丁寧に言い換えて再び尋ねる。 「そんなの、大学いってから決めればいいよ~! 遊んどける時に遊ばないと!」 結局遊ぶことしか考えてないみたいだった。 「……まぁ、お前はなんやかんや生きていけそうだよな。その性格で」 日向は諦めた様にそういうと、 「まぁな!」 と自信満々に陽介は返事した。いい返事に、これ以上の話は無駄だろうと全員が判断したに違いない。 「そういう日向、お前は将来どう考えてるんだ?」 今度は逆に、武が日向にそう投げかけた。 「……まぁ、実は俺も決まってないんだけどな。とりあえず大学いって、大手企業目指すかな〜。細かくは大学いってから考えるつもりだ」 「なんだよ~俺といっしょじゃん! じゃあそれまで毎日遊ぼうぜ!」 「遊ぶのはいいけどほどほどにしろよ……」 「はいは~い!」 ちゃんと決まってはいないものの、皆なんとなくだが将来の事を考えていることに、僕は少し驚いていた。 僕も何かないだろうか、と深く考え込んでいると 「難しい顔をしてる亜樹は何かあるのか?」 武が僕の顔を見て聞いてくる。 「お前は頭いいからな。どんな所行くんだ? やっぱ、将来は先生とか? それとも教授か!?」 後ろにいる僕の方を向いて、期待の目で僕を見てくる日向。 「よ、東條亜樹(とうじょう あき)せんせ~! 俺に楽しい勉強おしえて~!」 それに合わせて、陽介も僕をはやし立てる様にそういって僕の方を見てくる。 そんな期待の目に、僕は小さくつまらない答えを出す。 「そんなの……まだわかんないよ」 僕は困った顔をして答えた。 将来を考えた事がない。したい事も、目標も何もない。ただ与えられた課題をこなす事しかしてこなかった。テレビやネットでよく見る、やりたい事をやっている人を見るけど、僕にはそれがとても羨ましかった。好きな事を仕事にする。それが理想的で、一番輝ける事なのは理解できる。しかし、好きな事を見つけられない人はどうだろう。やりたくもない仕事をやり、惰性で生きているのだろうか。そうはなりたくないと強く思う。 しかし、やりたくない事があるわけでもなく、それは出来るとは到底思えなかった。 唯一、自分にある特殊な事といえば――
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