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第一話 贈り物の犬
ある日のこと、この国の王である私の元に他国からの使者が来た。なんでも、この国と友好的な関係を築きたいので、友好の証として贈り物を持って来たのだという。
この使者の国とは、私としても友好を築いておきたいと思っていた。その矢先に、向こうからこのような贈り物が来たのなら、受け取らないという選択肢は無い。
とりあえず、使者に一体なにを持ってきたのかを訊ねる。すると、使者はすぐそこに置いていた籠を開けて中身を出した。中から出てきたのは、小さい体に少し大きめの頭で、黒くて潤んだ瞳が可愛らしい犬だった。
「こちらの犬、チワワという種類のものなのですが、お気に召しましたでしょうか」
そう言ってチワワと呼ばれた犬を前に置いて使者が一礼をする。すると、チワワが高い声で小さく鳴く。
なんて可愛らしい犬なのだろうか! こんなものを贈られて不満なわけがない!
「このような可愛らしいものを贈られて不満なわけがないだろう。
そちらの友好の証、しかと受け取った」
私が使者にそう返すと、その言葉がわかったのだろうか、チワワが私の元へと歩み寄ってきて、じっと私を見て口を開いた。
「これからよろしくお願いします」
これは私の空耳だろうか。今確かに、このチワワが高い声で喋った気がする。
思わず驚いていると、使者がにこりと笑ってこう言った。
「このチワワは人の言葉を喋る珍しい犬なのです。それもあり、そちらへの贈り物として相応しいと選ばれました」
思わず立ち上がって、足下に来ていたチワワを抱き上げる。
「すばらしい、すばらしいぞ。
よし、こちらもそちらへの友好の品を贈りたいと思う。
それを選ぶ間、しばしこの城に滞在してはくれぬだろうか」
「はい、喜んで」
使者との対話はそこまでで、使用人に使者を客間へと案内させる。それから、他の使用人にこの都に住む貴族をすぐに集めるよう指示を出した。
そしてチワワがこの城に来た翌日、都に住む貴族達が私の前に集まった。用件はもう伝えてある。このチワワを贈ってきた国に、どのような贈り物をするといいか案を出して貰うのだ。
みな様々な案を出す。宝石だとか、時計だとか、絨毯だとか、そういったものの案が多かっただろうか。その中で、ひとりの貴族がこう言った。
「相手の国は、海に面していない内陸の国とのことでしたので、港を擁するこの国から贈るのには、東から輸入したすばらしい陶磁器を贈るのがいいかと存じます」
なるほど、確かに。宝石や時計や絨毯は、すばらしいものは貴重ではあるけれど、そこまで物珍しいものではないだろう。けれども、東から輸入した陶磁器はそれに優る。私はその貴族の案を採用することにした。
この貴族は見る目と才覚がある。そう思った私は、その貴族にこう伝える。
「お前のその見る目を見込んで頼みたいことがある。
確かお前には娘がいたはずだ。その娘を、私がかの国から受け取ったチワワの世話役として任じたい」
それを聞いた貴族は表情を明るくして一礼をする。
「ありがたいお言葉! すぐにお犬様に仕えるよう、娘に伝えます」
そしてさらに翌日。あの貴族が娘を連れてやって来た。娘にこれから世話をするチワワを紹介すると、娘は驚いた顔をしてから、にっこりと笑って私にこう言った。
「こんなに可愛らしい方のお世話を任されるだなんて、身に余る光栄です。
これから誠心誠意、お仕えさせていただきます」
娘のその様子を見て、これならチワワの世話を任せても大丈夫だと満足に思った。
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