バケモノ

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 その願いを食事を持ってきた母に訴えかけたが、案の定、却下されてしまう。彼女が云うには、――いつものように――僕は普通じゃないから外に出せないのだと……。  やはり居場所はここだけ。牢獄と対して変わらない、ここだけだ。  父は地方に単身赴任で、昨年から家にはいなかった。たまに帰ってきて声がすると思えば、二人の大喧嘩。階上から母の悲鳴に近い声が聞こえたり、父の野太い怒鳴り声が聞こえてくる。そんな時は、よく耳を塞いだ。聞こえないふりをした。意識をそこから遠ざけて、違う場所を想像し……。そして、云い聞かす。  ――大丈夫。ここは別の世界。僕には関係ない……と。  そんなある日。片足に繋がれていた鎖を母が外し、代わりに腰にロープを巻きつけてくる。ロープは母と繋がれていた。 「さあ、おいで」  母に促され、何か月かぶりに倉庫から出してもらえたかと思えば、僕の誕生日だった。――あそこにはカレンダーもないから今、何月で何日かも分からなかった――ちょっとしたご馳走が用意されており、いつもより機嫌の良かった母は、カットされた苺のショートケーキに蝋燭(ろうそく)を一本だけ挿して祝ってくれた。久しぶりに楽しい気分になれたし、笑うこともできた。  僕は蝋燭を見つめて、願い事を思い浮かべ、ふっと火を吹き消す。  その時の願いはたった一つだけ。  ――普通になれますように……。 「志季(しき)、五歳のお誕生日おめでとう」 「ありがとう。ねえ、お母さん」 「何?」 「僕はいつまであの部屋にいなくちゃいけないの?」  ピクリと母の唇の端が引き攣ったのが分かった。 「また、そんなこと云って……」 「ねえ」 「ずっとよ」 「ずっとっていつまで? なんで僕だけなの?」 「……お母さんはあなたを守る為に、こうしてるのよ?」 「守る?」 「そう……あなたの為なのよ」 「どうして? どうして、僕は幼稚園にいけないの? なんでみんなとおんなじように遊べないの?」 「だから、あなたの為だって云ってるじゃない!」  母は気色(けしき)ばんで、卓上を叩く。
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