バケモノ

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 僕は咳き込みながら、母を見据えた。彼女の指が激しく震えている。目を見開き、涙を落とし。 「ご、ごめんなさい……。お母さんを許して……」  僕の頭の中ではしかし、ある言葉で埋め尽くされていた。  バケモノ。バケモノ。バケモノ……。  ――僕はバケモノなの?  幼かった僕は、母の口から出たその言葉が悲しくて仕方なかった。胸のあたりが締め付けられ、苦しくなった。  僕の心の一部はその時、母の手によって壊されてしまったのかもしれない。直すことが不可能なくらいに……。  その後は、いつもの灰色の四角い箱に戻され、鼻に(まと)わりつくしっけた臭いに包まれながら、床に敷かれた布団の上で膝を抱え、ちゃんと母の云いつけを守り、じっとを続けた。  僕が普通じゃないから、バケモノだからいけないんだ――と、自らを責めながら……。  そして、幼い心は次第にすり減っていき、ストレスで髪をむしり、皮膚に爪を立て、身体中が傷だらけになっていった。  いつまでこの地獄は続くのだろう。いつになったら自由になれるのだろう。僕はいつになったら普通になれるのだろう。そんな問いかけを頭で繰り返しながら、いつ解放されるかも分からないその日を待ち続けた。  そして、幽閉(ゆうへい)は僕が五歳の誕生日から約三年間、八歳の時までずっと続いた。  でも、今となれば間違っていたのは母の方だと分かる。  人間離れした能力を持って生まれてきた――ただ、それだけのことで、普通じゃないからと幽閉し、殺そうとする母こそがヒトとして狂っている。間違っていたのだ。  ――ああ、何でこんな目に。なぜ、僕だけ……。僕だけなんだ……。許せない。許せる筈がない……。  悲しみが、怒りへ……気づけば、憎しみへと変わり……。  かくして、僕は八歳の時にを起こし、家族に捨てられたのだった。
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