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いらないモノ
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S**児童養護施設の中庭にあるベンチで志季は、休日をぼーっと過ごしていた。十二月だが、今朝は陽射しが暖かい。日光浴に最適な天候だ。しかし、中庭を走り回っている幼児たちがキャッキャっと至て騒がしい。いつものことではあるが、こればかりは我慢ならない。だから、自衛策を講ずることにした。対策は、非常に単純なもの。イヤフォンを耳に付けて、いつもよりもボリュームを上げ、好きな音楽を聴く。これだけでいい。完全にとはいかないものの、ある程度はこれで遮断できる。
無邪気に遊ぶ子供達を見る分には特に不快ではないし、どちらかというと心が和む。
逆に、存分に遊びたまえとも思う。そんな風に遊べるのは今のうちだけだからだ。大きくなれば、そうはいかない。いろんなものに追われ、急かされ、気持ちに余裕がなくなっていく。感情にも支配され続ける。勉強や人間関係、自分の容姿や健康状態。些細なことにも一喜一憂し、終いには心が痩せほそり、疲れ果てる時がきっと来る。
ゆえに、今のうちに思う存分、遊んでほしい。
(この子達からは、まだ強いデストルドーは感じられない……か)
中庭で追いかけっこして遊んでいる数人の幼児たちはとりあえず元気である。
八歳の頃に家庭内で事件を起こし、この施設に入所してきてから、かれこれ九年。でも、これで良かったと思う。ここへ来て自由にもなれたし、やっと母親から解放されたのだから。
寂しいという気持ちも、あの家に置いてきた。人間のややこしい感情に振り回されるのはもうごめんだからだ。愚かな人間になる前に、できるだけ精神の平衡を保ち、できるだけダイレクトに心で受け止めないよう、努めてきた。
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