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人間――誰しも、生きていれば知られたくない事柄はある。もし、それを他人に見られてしまったら――そりゃいい気はしない。だから、みんなはこぞって自分から離れていく。距離を置こうとする。
でも、別にそれでも構わなかったし、自分も去るものを追おうとは思わなかった。だが、ヒトに興味が無かったわけではない。――特に、負の感情には……。
ありていに云えば、悲嘆にくれ、苦悩に満ちた顔が大好きだった。
彼らの悲しみが自分を満たし、救ってくれたから……。
だから、返そうと思った。死にたいと願う人間の手助けをしたくなったのだ。
そして――あれはもう、今から三年前になるか。
中学二年に上がってすぐの頃。志季は、ヒトに触れるとそのものの記憶を読み取る能力に加えて、ヒトから黒いオーラのようなものが見え始めた。
最初は自分の目を疑ったが、いつしかそれが人間の負のオーラ(デストルドー)だと云うことに気がついたのだ。契機は、某の男子生徒が学校の屋上から自殺を図った時だった。
*
昼休み、急に廊下が慌ただしくなった。パタパタと上履きの音が複雑なリズムを刻み、生徒たちが同じ方向へ走っていく。
志季はその時、教室で本を読んでいた。
なんだろう? と、廊下の方を見ていると、一人の男子生徒が教室の中に向けて、こう云った。
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