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「今、屋上で自殺しようとしてる奴がいるって!」
志季は目を見張った。
そして、それを聞いた生徒たちは、「なあ、見物しに行こうぜ!」「見物ってお前なー」「面白そうじゃん?」「いこいこ!」「誰だろう……」「自殺ってやばくない!?」そんな会話がちらほらと聞こえてきた。ただただ驚くものや、興味津々といった感じに楽しげな面差しを浮べているものもいた。
そして、一人教室を出ていけば、他の生徒らもそれに釣られるようにして、後を追っていく……。
志季はそれらを見届けてから、静かに本を閉じると、机から緩慢に腰を起こす。
屋上に行くと、すでに人だかりができていた。生徒の群れを分け入っていくと、先程の男子が云っていたことは虚報ではないとわかった。
小柄で色白の男子生徒がフェンスの向こうに佇んでおり、二人の先生が懸命に思い止まるよう綺麗事を並べている。
しかしそんな中、志季は全く別のことで動揺していた。
(あれはなんだ……)
彼から凄まじい黒いオーラが見えたのだ。
悍ましい闇……といったような。怒り、憎悪、恐怖、悲愴、そういったものが彼の身体から滲み出ているようだった。
先生は未だ必死に自殺を止めようと、ありきたりな言葉を連ねている。
しかし、男子生徒はどのような説得にも反応を示さなかった。彼は分かっているのだ。その言葉、一つ一つになんの意味も備わっていないことに……。
それに、そんな見繕った言葉など、もう彼は必要なかったのだ。
そう――彼には全てが無意味なのだ。
志季は思った――心底、彼は死にたいのだ、と。こんな世界に留めておく方が可哀想だ、と。
だから、彼に向けてこう云ってやった。
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