いらないモノ

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 負のオーラに包まれた彼らの憎悪や悲愴に満ち満ちた面差し……。醸し出す闇……。毎日、そういった人間を眺めるのが、志季はとても好きだった。志季の目には、それが美しく見えたのだ。  そして、そんなご馳走とも云える人物が自分の隣席に……。  女子生徒の名は、葦原(あしはら)詩帆(しほ)。彼女はいつもニキビだらけの顔を髪で隠している。ストンと落ちた肩あたりまであるストレートの黒髪、前髪は目許にかかるくらい長い。目鼻立ちは髪で隠れており、よく窺えない。しかし、ニキビの炎症によって赤ら顔になっているのは見受けられた。上背はある方だが、スタイルが良いというよりも痩せ細った身体が痛々しく見えた。  志季は、そんな彼女を見るのが、とても好きだった。今も熱い視線を彼女に向けている。机に片肘を付き、頬杖をしてひたすらに眺める。彼女に触れたい、触れて知りたい。そういった感情が波のように押し寄せては引き、押し寄せては引き……。毎日、理性を保つのが必死だった。  彼女は顔を俯かせ、いつものように顔を隠す。膝の上で手のひらを握りながら、ただ、じっと昼休みを過ごしている。  そんな時だった、彼女が蚊が鳴くような微かな声で、 「見ないで……」  と、云った。
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