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「どうして?」
「恥ずかしいから……」
「へぇ、恥ずかしいんだ。可愛いね」
すると、詩帆ははっとした顔をしてこちらを向いてきた。そんな彼女に志季は笑みを作ってやる。
顔中に窺える小さなニキビ、大きく腫れ上がったニキビが露わになった。
「揶揄わないでください……」
そう云って、彼女はまた俯いてしまう。
志季は髪の向こうに隠れてしまった顔を覗くようにして、
「揶揄ってなんかないさ」
詩帆は、特にいじめにあっているわけではなかっだが――きっと、友人は一人もいないだろう。
誰かと話してる姿も見たことがないし、彼女はいつも自席を動かない。ただ、じっとして時が過ぎるのを待っているのだ。
志季は笑みを口許に広げて、
「君は綺麗だよ」
そう投げかけてやると、詩帆はピクリと肩を動かし、
「やめて……」
と、ますます背中を丸めてしまう。
「綺麗だ」
彼女はぶんと首を横に振る。
「とても綺麗なオーラをしてる」
そう云うと、彼女はおずおずとこちらへ顔を向け、小首を傾げた。
「君のことをもっと知りたいな」
そう囁いて志季は柔和に微笑した。
五月の少しく冷たい爽やかな風が、教室の開いた窓から流れ込んでくる。朗らかな太陽の光が雲の切れ間から差し込み、教室の翳を黄色く塗りつぶしていく。
彼女の瞳孔は揺れていた。驚いた顔のまま、まっすぐこちらを見ていた。
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