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それからは少しずつだが、彼女から話しかけられた。いつも読んでいる本のこと、得意な科目は何か、彼女はいるのか……。それを訊かれた時、詩帆は紅潮していた。いつも以上に、もじもじとさせている。
志季はそんな彼女に一言こう云った。
「いないよ」
すると、詩帆の顔があからさまに晴れ晴れとし、眸を煌めかせる。ニキビ面なのは変わらないが、それよりも嫌だったのは、彼女の負のオーラが薄れていることだった。彼女が変わってしまうことに恐れすら覚えた。
しかし、彼女は日に日に綺麗になっていく。
ニキビの数が減り、赤みも無くなり、薄く化粧もし始めた。髪の毛は、ちゃんと前髪を切り揃え、しっかりと眸が見えるようにもなった。彼女は顔のパーツが悪いわけではなかったから、身なりを整えただけで、クラスでも一二を争うくらいの美人になった。
然れども、志季はそれがどうしようもなく嫌だった。彼女の生きようとする意欲が増していくほどに、志季の不満は溜まっていくばかりであった。
そんなのは美しくない。魅力的じゃない。自分のほしいモノと違う。だから、もう必要ない――そう思った。
ある日、学校が終わった直後、詩帆から校舎裏に来て欲しいと頼まれた。理由はよく分からなかったが、志季がそれに承諾すると彼女は鞄を抱いて、そのまま教室を走って出ていってしまった。
(なんだろう……)
そんなことを思いつつ、帰り支度を済ませてから、彼女に云われた通り校舎裏に行くと、両手で鞄を前に持ちながら詩帆が佇んでいるのが見えた。辺りには誰もいない。遠くで生徒たちの喧騒が聞こえてくるだけだ。
「どうしたの、こんな場所に呼び出して」
詩帆はもじもじと鞄のショルダーを、ぎゅっと掴んだまま地面に視線を落とす。
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