いらないモノ

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「あの……」  そこで言葉を切り、 「あのね……」  もう一度、言葉を切り、 「私、志季くんのことが……」  彼女は一歩前に出て、(おもて)を上げる。 「志季くんのことが好き……なの。だから……えっと……その。良かったら……付き合ってください」  訥々(とつとつ)と告白をしてから、頭を深く下げてくる。彼女の艶やかなストレートの黒髪が前に垂れ下がった。 「えっと……」  詩帆は、そろそろと志季の顔を上目遣いで見つめてくる。今にも涙しそうな眸。まるで、湖面の中に浸っているような、そんな眸だ。顔も耳も真っ赤である。  しかし、志季にとって彼女はすでに関心の埒外(らちがい)にあった。 「ごめん、君にもう魅力を感じられないんだ」 「…………」 「だから、君とは付き合えない」  そう抑揚など付けず、きっぱり断ると、詩帆は顔を歪ませ、涙をボロボロと零し始める。 「やっぱり、私って気持ち悪い?」 「そうじゃないよ」 「じゃあ、なんで嫌いになったの?」 「別に嫌いではないよ。ただ、つまらなくなっただけさ」 「何それ、酷い……」 「酷い?」 「酷いよ! この前、私のこともっと知りたいって云ってくれたじゃん!」 「そうだけど、もう興味がなくなったんだ」 「どうして、そんな酷いこと云うの?」  その直後、志季は目を見張った。彼女の身体の表面から今までに見たことがないほどの黒々としたオーラがじわじわと溢れ出したのだ。
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