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志季は彼女に歩み寄る。
手のひらを顔にあてがって泣いている詩帆を見て、矢も盾もたまらず、小刻みに振るわせる彼女の肩に手を置き、抱きしめた。――すると……。
彼女が今まで感じてきた悲嘆に暮れた世界がまざまざと脳裏に映し出されていく。哀れで、惨めな美しい世界だった。
ああ……。これを求めていたのだ。ずっと、長らく窮屈に感じていた何かが解放されていくようだった。
目を瞑り、鼻から息を吸い上げ……。
(気持ちいい……)
彼女の悲しみが心に染み込んでくる。繋がったような、一体感をも味わえた。
その時だった――彼女の身体が重くなったかと思うと、ぐったりとしており、支えておかねば倒れてしまう。
「どうした!?」
志季が声をかけても、詩帆はものを云わぬヒトの抜け殻のようになっていた。
(どうしてしまったんだ……)
すると――おりしも、志季は近くで何かの気配を感じ取った。
(な、なんだ……)
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