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後ろを振り返って見ると、得体の知れない黒い靄も纏うバケモノが……。
(なんだこれは……)
そのバケモノは低く呻き声を上げている。
見た刹那、ぞっとはしたがしかし、自分には危害を加えそうにない、と分かった。このバケモノがなんなのかは、その時は分からなかったが、この上なく愉快な気分になった。何かこれから始まろうとしている――そんな予感が過り……。
すると、あまつさえバケモノが急に悲鳴を上げて、苦しみながら溶け始める。いや、蒸発しているようだ。
志季は空を振り仰ぐ。
(太陽の光?)
今まさに、鈍色の空に浮かぶ雲の連なりが途切れて、陽射しがこの場に差し込めてきた。
志季は敏く理解した。
(こいつは陽の光に弱いのか……)
そう思いながら、後ろで横たわっている詩帆を見下ろし、
「ねえ」
そう呼びかけた。――だが、未だに彼女はひくりとも動かない。
「ねえ、起きてよ」
肩を揺すってみたものの、完全に脱落している。
彼女の手首を持って脈を測ってみるも……。
「死んでる……」
志季はゆるりと立ち上がり、気息を上げていく。
「死んでる…………」
唇がめくれ、笑いが漏れる。顔を指の腹で確認するようにして、もう一度、ゆっくりと笑ってみた。
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