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その後、葦原詩帆は原因不明の心臓麻痺として片付けられ、その一件は幕を閉じた。
だが、志季にとっては、これは始まりに過ぎなかった。これからは存分にヒトの死を味わうことができる。まさに、究極の贅沢である。
まるで、そう――林檎を齧ると、ジューシーな蜜と旨味が口中に広がり、脳髄に溶け入るかのようで……。
食べた時の頭上から足先まで電撃が走り抜ける感じ。
ああ……昇天しそうだ。
サク……サク……。
ムシャ、ムシャ……。
死の味がする。極上の逸品。
この先もずっと味わいたい。何度も何度も、咀嚼したい。
ああ、死の味がする。うまい。快感だ。
4
志季は、児童養護施設の自室のベッドの上で本を読んでいた。時間は夜の十一時頃。
施設内はもう就寝時間だ。そんな時に突然、ドアからノックが聞こえた。
珍しい。この部屋を訪れるものは久しく見ていない。
ゆっくりとドアを開けてみると、視界の下に小さな頭が見えた。俯くと、まさかの桃だった。
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