いらないモノ

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「桃ちゃん、どうしたんだい?」 「お兄ちゃんに会いにきたの」 「どうして?」 「さっきのロックを聴きにきたの。お昼は、ここなお姉ちゃんに邪魔されちゃったから……」 「でも、いいのかい? 僕と一緒にいたらまた怒られるんじゃないの?」 「だから、お兄ちゃんの部屋にきたの。誰にも見つかってないから平気!」 「なるほどね。じゃあ、どうぞ」 「うん!」  桃はニッと歯抜けの笑顔を見せて、部屋の中に入ってきた。  黒目がちなビー玉のような丸い眸を忙しなく動かし、辺りに見まわしている。 「お兄ちゃんの部屋、本がいっぱいだね!」 「ああ、本は好きかい?」 「うん、大好き! よくね、寝る前にママにいろんな絵本を読んでもらったの。その中でもね、狼と七匹の子山羊が大好きなの!」 「へぇ、どうしてだい?」 「うーん、最後はちゃーんと悪い狼さんを退治できるからかな。子山羊のお母さんが狼さんのお腹を切り裂いて子山羊を助け出してから、代わりにそのお腹に石を詰めるの! それでね、目が覚めた狼さんは喉が渇いてね、重たいお腹を抱えながら井戸に行くと落っこちちゃうの!」 「へえ、そうなんだ。でも、ちょっと残酷だね」 「うん……。でもね、悪いことしたらお仕置きしなくちゃ……」  志季は暗澹(あんたん)として目を伏せる桃を見て、眉をひそめた。  ――負のオーラが濃くなっている……。  志季は、案ずるあまり彼女の頭を撫でながら、記憶を覗き見た。
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