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凍砂は、なかなか繋がらない電話に苛立った。部屋を歩き回りながら、早く繋がってくれと心で訴えたがしかし、一向に繋がらない。
するとおりしも、玄関ドアの開く音が。一花が買い物から帰ってきたようだ。
凍砂が部屋のドアを開けると、廊下で一花が「ただいま」と云って、右手にビニール袋、左手には白い箱を掴み、せっせと台所まで持っていく。
あの日――サイコビーストが学校を襲い、凍砂が病院に運ばれた際、ちょうど身分証明をできるものを持ち合わせていなかったお陰で、一花には連絡がいかなかった。血で汚してしまった制服は気づかれないように、ある程度自分で洗い、落ちきれなかった箇所はクリーニングに出し、ことなきを終えた。
――しかし、なんでこんなことに。どうしてこんな目に遭う。普通に生きたかった。家族みんなと平穏に暮らしたかった。
だが、神はそれを許してくれなかった。どれだけ苦しめばいい。どれだけの死と向き合えばいい。自分はこの先どうしていけば……。
頭の中で不安と悲しみが散乱している。自分ではお手上げと云わんばかりに、それらを片付けることは疎か、茫然とその雑然とした有様を見つめることしかできなかった。
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