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凍砂が台所に行くと、さっき一花が持っていた白い箱に目がいく。
「これ、ケーキ?」
一花は買ってきたものを冷蔵庫に入れながら、
「あ、うん。何だか食べたくなってね。凍砂の分もちゃんとあるから。食後にでも食べましょ」
「うん」
特にイベントでもないのにケーキとか珍しい。いや、そういえば二月のこの時期にはいつも買ってきていたような……。
最近は一花の情緒も安定してきている。買い物をしに外へ出ることも増えたし、笑顔を見せることも多くなった。薬もちゃんと用量を守っているようだ。
ただ、だからといって安心はできない。また、いつ気落ちするかも分からない。心を患ってしまうと、何度も振り返すものだからだ。
健康な人間だって、気分の上がり下がりはある。きっと、生きている限り平坦になることはないのだと思う。自分だってそうだ。今は、どん底にいる気分だった。
「ていうか、もうすぐ三月ね。凍砂も二年生か……。ほんと、月日が経つのって早いわね」
「うん」
「春休みはいつからなの?」
「確か、三月二十七日だったかな」
「じゃあ、だいたい一か月後か。そしたら、今年はどこか旅行にでも行きましょうか」
「旅行?」
「うん、凍砂の目が見えるようになったし、これからは二人でいろんなところへ行きましょ」
「ああ……そうだね」
「温泉に一泊旅行とかもいいわね」
「う、うん」
一花がとても楽しそうに云うものだから、凍砂は無理にでも笑顔を作って見せた。
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