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しかし、複雑な気持ちなのは、彼女も一緒だと思う。この視界は葉砂を失って得たものだから……。
心の底では分かっているのに。これは仕方ないことなのだと。
でも……。
頭では分かっていても、気持ちを切り替えることは難しい。視界を得たことへの罪悪感、大事なものを失った喪失感。
これは決して求めていた形ではなかった。確かにもう一度、光を取り戻すことを夢見てきた。ずっと諦めずに、自分に適合するドナーを待った。
でも……。
そうじゃない。これは違う。こんなのはあんまりだ。葉砂の代わりに得る光なんていらなかった。光を返すことで葉砂が蘇ってきてくれるのであれば、どうぞと云わんばかりに、この目を差し出すだろう。
もう一度、会いたい。
もう一度、声が聞きたい。
もう一度、会って伝えたい。
頭の中が葉砂への思いで渦巻いていく。もう、どれも叶うことは決してないのに……。
凍砂は心の内で哀願した。
諦めることを誰か教えてくれ……。それで救われるのなら、今すぐに、と。
3
――プルルル。
手に持っていたスマホに着信が……。
凍砂はすぐさま自室に戻った。
スマホの画面に視線を落とすと、火浦明日馬と表示されていた。
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