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時間通りに明日馬はマンション前に現れた。彼からの電話を取り、すぐ行きますとだけ云って適当なものを羽織ると、一言、一花には近くのコンビニに行くと嘘をつき、自宅を出た。
瞬間、冷たい風が頬を撫でた。まだ、二月の終わり。外は肌寒い。
マンションの出入り口を抜けると、明日馬がバイクに腰を付けて立っていた。
凍砂が駆け寄ると、「やあ」と手を挙げ、
「遅い時間でごめんな」
と、すまなそうに笑う。
「いえ……」
気まずい空気。
すでに沈黙が二人の間に流れてしまう。
云うことは決まっているのに、言葉が出てこない。
唇が震えた。指を握り込み、彼の視線から逃れるように横へ流す……。
すると――。
この沈黙を破ったのは明日馬の方からだった。
「何か、話があったんだろ?」
何も云わず、暗澹として頷く。
「その表情を見る限り、きっと、りさのことかな……」
「…………はい、そうです」
見ると、明日馬の表情が硬くしまったのが分かった。そして、やはりな、といった感じに前髪をかき上げてくしゃりとする。
「今日の夕方頃、自宅まで来た警察に事情聴取されました。犯人の顔を見たかと……」
それを聞くと、明日馬は伏せていた視線をこちらに向けて、意味深に眉をひそめた。
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