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ただ、明日馬だって実際は辛いに決まっている。あの状況を作ってしまった自分にも責任がある。だから、一方的に彼を責めることはできない。
しかし、このどうしようもない感情の矛先を向ける場所が……。
どうしたらいい。この抑えがたい悲しみと怒りをどこへ向けたらいい。
「しかし、あの時は……ちゃんと云うことができなくてすまなかった」
明日馬が頭を下げてきた。
「火浦さん……」
「こんなこと云えた義理じゃないが」
口調を改めて、
「これからも俺のことを信じてほしい。君のことはこの先も俺が必ず守る。そして、二人でこの悲劇に決着をつけよう」
風が強く吹き抜けていった。明日馬の真剣な面差しが、まっすぐな眸が、凍砂の心を揺さぶった。しかし――一度、心に垂れ込めた彼への不信感は残ったままだった。
5
月曜日になり、凍砂は学校に向かっていた。
その後、週末の二日間は頭の中が混沌としたままだった。明日馬の判断の正否の見定めよりも、そんなことまでして、警察の目を掻い潜らなくてはならないなんて……。それが、どうしようもなくやりきれない気持ちになった。
足取りが重い。学校に行っている場合かとも思う。
しかしながら、サイコビーストを生み出しているやつが誰なのか分からない限り、こちらからアクションを起こすこともできない。
そう、いつも受け身側なのだ。被害が起きてからの行動。
凍砂は指を握り込み、眉間を狭めた。
(元を絶つことができれば……。一体、誰なんだ……葉砂、お前は犯人が誰なのか知ってるのか?)
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