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教室に入ると、中はいつもと変わらない喧騒があった。
まだ、りさが亡くなって一週間も経たないというのに、彼らはすでに忘れてしまったかのように楽しそうだった。
彼らの頭の中はどうなっているのだろう。確かに、りさはクラスで浮いた存在だった。でも、こんなにも早く気持ちを切り替えることができるなんて冷たすぎる。
凍砂はすぐ、未子の席に一瞥をくれるが、やはり空席のままだった。
(まだ入院してるのかな……)
自分の力で魂をもとあった場所。即ち、人間の中へ帰せたがしかし、未子は記憶を失い、自分が誰なのかも分からないようだった。正直、このまま学校に来ないんじゃないかと不安が過った。
魂を帰すことができても、別人のようになってしまうのなら意味が……。
――いや、生きてさえいればどうにかなる。生きてさえいればいつかきっと救われる時がくる。無意味なんかじゃない。この力は自分にとっても、救いだ。このどうしようもない闇を僅かに照らしてくれる冀望の光だ。――だから……だから……。
歩き出すと、唯人と凌空が近づきてきた。
「凍砂、おはよう……」
唯人が挨拶してくる。
「おはよう」
「大丈夫か?」
全然大丈夫ではなかったが、心配をかけまいと頷いて見せる。
「つか、門叶が連続通り魔の被害者になるなんてな……もう他人事じゃねえってことだよな」
凌空は手をこまぬき、表情を曇らせた。
凍砂は唯人と目顔で答えるようにして、自席へ移動する。
まだ、凌空には本当のことを伝えていない。
どうするか考えあぐねていた。彼のことを信じていないわけではないが、軽々しくサイコビーストの存在を云うべきではないと思ったのだ。
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