混沌

15/22

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
「でも、これ以上誰かの目に入ると大変だ。部長にはどうにか誤魔化して、削除してもらうしかないな」 「うん、今から部長に電話してみる」 「分かった」  凍砂は通話を切り、すぐ、由茉にかけようとしたがしかし、その手を止めた。  きっと、由茉に連絡を入れれば、明日の集会でこの話が持ち上がるだろう。――だが、やむを得ない。学校中に噂が広まるよりはいい。  しかし、この投稿者はどこまで知っているのだろう。〝連続通り魔事件はサイコビーストというバケモノの仕業。久遠凍砂はその事件に関わっている〟この文面を見る限り、かなりの情報を入手しているような気がする。  これ以上、サイコビーストの情報を漏らされたら事態は深刻になる。迅速に対処しなければ……。  ただ、このアカウントをBANしたところで、書き込んだ人間を見つけ出さない限り、鼬ごっこになる可能性がある。相手からしたら、また新たにアカウントを作ればいい話だからだ。  発信者情報開示請求はハードルが高すぎるし、自力でIPアドレスを特定し、相手の身元を調べるのも専門知識がないと無理だ。 (最悪、由茉に頼んで一時的に掲示板を封鎖してもらうしかない……か)  とにかく云い訳を考えて、由茉に連絡をいれよう。話はそれからだ。  次の日、オカ研の集会では案の定、由茉からその話が持ち出された。 「電話でも話したけど、あの情報はデマなのね?」 「……うん」  と、凍砂は頷くしかできなかった。 「そう……でもなんであんなデマを。久遠くんのことを(おとしい)れようとでもしてるようじゃない? 心当たりとかないの?」 「うん……」  はあ……と、由茉は小さくため息をついてたら、 「とりあえず、投稿者はBANしたけど、また同じようなことが起きたら一旦掲示板を封鎖するね」 「ありがとう……」 「てか、サイコビーストってなんなのかな。バケモノって云ってたけど、今まで聞いたことないわ。誰か知ってる?」  唯人と凍砂は暗澹として首を振る。しかしそんな中、凌空が喋り出す。 「分かんねえけど、本当にその情報はデマなのか?」 「え、どういうこと?」  由茉は眉をひそめる。 「いや……なんつーか、凍砂って隠し事多そうだし、まだ俺たちに云っないこととかありそうじゃね?」 「隠し事なんて、誰にでもあるんじゃない? なんでそんなこと云うのよ。久遠くんとは友達でしょ? 信じてあげなくてどうすんのさ」 「友達ね……。唯人とはいつも一緒にいるし、友達なんじゃね? でも、俺はどうだか」  それを聞いて、唯人が間に割り込む。 「おい、何云ってんだよ。お前だって友達に決まってるだろ?」 「唯人から云われてもな。本人が黙り込んじまってるし」 「…………」  三人にじっと見られ、凍砂は言葉に詰まる。 (どうしてこんな状況に……)  凌空の様子がいつもと違っていた。どこか不機嫌で、言葉一つ一つに棘があり、怒りが込められているようにも感じた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加