蔽われていた過去

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蔽われていた過去

    1  唯人と別れ、ホームで電車を待つ中、先刻の出来事を思考する。  あれは、きっと唯人の記憶だ。自分が知り得ない記憶……。彼に聞かずともそれは明らかだった。幼少期から今までの記憶が僅かではあったが、見えてきた。  やはり、この能力も葉砂から受け継いだものなのだろうか……。  眼痛が起こり、眸の色が濃くなるにつれて自分の中で目覚めていく能力が恐ろしかった。  電車が到着すると、暗澹として乗り込み、人の群れの中つり革を掴むと、もう一つの気がかりを思考した。  眼痛とともに一瞬、意識が飲まれるような感覚に襲われ、その時に見た不可解なもの。いつものように、夕刻の海が広がってはいなかった。幽幽(ゆうゆう)たる、どこかの地下らしき場所。そして、目の前にある施錠のかかったドア。一花は苛立ちを露わにし、ここに来ては駄目と禁じていた。  状況が理解できなかった。あの地下はどこなのか。ドアの中には何があるのか。どうして、近づいてはいけないのか。一花はあそこで何を……。  もし、七歳の時の事故が原因で起きた記憶の欠落、その一部を思い出したのだとしたら……。 (そういえば)  現在のマンションに住む前は戸建てに住んでいたと、以前、一花から聞いた覚えがある。その頃の記憶が全くない凍砂は、もしかしたら、前の家には地下があったのではないかと考えた。  このことは、一花に話すべきかもしれない。昔あった出来事の一部であるなら、尚更だ。 (帰ったらすぐに話そう)  どうして自分が事故に遭い、失明してしまったのか。考えれば考えるほど、眠れない夜もあった。頭の中に垂れ込む濃霧(のうむ)から記憶をすくい上げることは容易ではなかった。でも、これがもし、記憶の一部で、僅かでも取り戻しつつあるのだとすれば……。――まだ冀望(きぼう)が残っているということだ。もしかしたら、失っていた記憶を取り戻せるかもしれない。
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