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呼び出し音が一回鳴り終わると、『あ、凍砂くん!』と緊迫した明日馬の声が。
「ニュース見ましたか!?」
『ああ、さっきから連絡していたんだが繋がらなくて』
「すみません、今まで病院にいたんで電源をオフにしてました」
『病院って、なんかあったのか!?』
「えっと……はい、母さんが……」
そこで云いあぐねていると、明日馬はその先は訊かずに話を変えてきた。
『とにかく、合流しよう。街で二匹のサイコビーストが暴れてる』
「二匹!?」
『ああ、今その惨状にいるんだ。どんどん人が襲われてる。このまま心臓をいくつも喰われたら、俺たちにも手が負えなくなってしまう』
電話越しから、人々の悲鳴と絶叫が聞こえてくる。ざわざわと緊張が全身に押し寄せ、手のひらが汗ばみ、指先に力がこもる。
『今、どこにいる』
「D**病院の前です」
『分かった、今から……くそ! うわあ!」
そこで電話を切れてしまった。
「ひ、火浦さん!?」
明日馬に何かあったようだ。
(もしかして……)
心臓が早鐘を打ち始めた。
そういえば、ニュースで見た場所はここから近い。走ればさほど時間はかからないだろう。
凍砂はスマホをポケットにしまい走り出した。
しかし、心では畏れていた。この状況下でりさはもういない。明日馬と二人でサイコビーストを帰せるかと聞かれたら、答えは限りなくNOに近い。この足は、自ら死地に向かって走っているようなものだった。不安と恐怖が内側から膨れ上がり、胸を圧迫する。死という言葉が脳裏を何度も掠め、その度に、かぶりを振り動かす。きっと、この足を止めればたちまち動けなくなってしまうだろう。
歯を食いしばる。
だから、止まるな。止まっては駄目だ。この足がもげようとも、決して止まるな。
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