蔽われていた過去

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   3  街は阿鼻叫喚に包まれていた。女の悲鳴、男の絶叫、車が衝突する音。火が噴出し、爆発する。黒い煙がたなびき、視界を奪われる。街は恐怖と大混乱の渦中にあった。  スクランブル交差点で逃げ回る人の群れから明日馬が一匹のサイコビーストと遣り合っている姿を見つけた。 「火浦さん!」  しかし、もう片方のサイコビーストは誰からともなく心臓をえぐり取り――また一人、また一人と犠牲者は地に伏していく……。  人が次々と勝手に血しぶきを上げて倒れていく姿を見て、人々は何が起きているのか分からず絶望していることだろう。 「火浦さん! もう一匹のサイコビーストが!」 「分かってる! とにかく君は帰すことに集中してくれ。とりあえずこいつの動きをなんとか止めてみる」 「分かりました!」  しかし、サイコビーストはかなりの数の心臓を喰らっているらしく、強化されているようだ。動きが今までのとは比べ物にならないくらいに速い。  明日馬も攻撃をかわすだけで精一杯といった感じだ。 (このままじゃ、サイコビーストを止められない。やっぱり二人じゃどうしようも……)  先刻まで大勢が往来していた交差点にはすでに二人を残し、誰もいなくなっていた。そして、交差点を囲むように群集とテレビ局の人たちがこの光景を映している。  まずい状況なのは確かだろう。こいつらを帰せたとしても後々、問題が起こりそうだ。  その時だった、もう一匹のサイコビーストが凍砂に襲い掛かってきた。 (避けられない!)  不意を突かれ、腕で顔を覆うことしかできなかった。 「凍砂くん!」  明日馬の声。  目を開けてみると、目の前に彼の背中が。 「火浦さん!」  彼は既の所で、サイコビーストを刀で切り裂き蹴り飛ばした。  しかし、腕からは鮮血が……。 「血がっ!」 「ああ、大したことない……それよりも早く力を」 「はい!」  しかしそんなところにあまつさえ、もう片方のサイコビーストが畳み掛けるように二人に襲い掛かってきた。  もう埒が明かない。この難局を打破するには、両方とも動きを止めるか、それとも片方を無理やり帰すしかなさそうだ。
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