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「久しぶり、凍砂」
ローブを身に纏った者は歩きながらそう云う。
「え……」
「なんだいその顔は。もしかして、忘れちゃったのか?」
ローブを身に纏った者は、僅かに残念そうに肩を落とすと屈みこみ、凍砂の顔を覗き込みながらフードを取る。
「ほら、覚えてない? 僕のこと」
凍砂は首を横に振る。
「ああ、そうか。僕は、ずーっと幽閉されていたから忘れちゃったのか」
「幽閉……」
凍砂はその言葉を聞いて、脳裏にあることが思い浮かぶ。――あの、不可解な光景だ。薄暗い地下、錠のかけられたドア、食事を持っていく一花の姿、そして……。
凍砂ははっとする。あの時の少年だ。ドアの向こうにいた傷だらけの痩せ細った少年。あの時はまだ小学生くらいだったが、僅かに面影が残っている。
「あれ? もしかしてその表情。何か気づいたのかい?」
「地下室にいた……」
「そう! やっと思い出した? 僕の母親はね、ずーっと僕を地下倉庫に閉じ込めていたんだよ……ああ」
そこで言葉を切り、彼は改めてこう云った。
「君の母親でもあるか」
「僕の母親……」
「凍砂。僕の名前は志季。君のお兄ちゃんだよ」
微笑が口許に広がった。その左右対称に整った顔は人間ではない、どこか作り物のようで、ぞわりと身体中の肌が粟立った。
しかし、頭が追い付かない。志季? 聞いたことのない名前だ。それに、兄だなんて。自分にはそんな兄弟は……。
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