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「じゃあ、君が失明した原因は覚えてる?」
凍砂は首を横に振る。
「もしかして、記憶がないの?」
その問いにゆっくりと頷く。
「そうだったのか……。知らなくてごめん。辛かっただろう。みんなは教えてくれなかったんだね」
「どういう意味?」
「僕がお前の光を奪ったことをさ」
息が止まった。頭の中が過去の渦に叩き込まれ、走馬灯のように記憶が蘇っていく。
*
「お母さん助けて!」
まだ幼い葉砂が涙ぐみながら、母親の助けを呼ぶ姿。怯え切った自分もそこにいた。
しかし、母親は出かけているのか駆けつけて来ない。
ナイフを持った志季は、一歩また一歩と二人に近づいてくる。
「お願い、やめて……」
葉砂は震え声で訴える。
「お前たちはいいよな。外に出れて。僕はずーっと暗い倉庫の中だ。なんで、僕だけ……なんで、お前たちは……ずるいよ……」
悲壮に滲む志季の顔。その中には強い憎悪も窺えた。
「許せないよ……」
その時だった、志季は持っていたナイフを素早く横に振り切る。
「きゃああ!」
葉砂の悲鳴がダイニングに響く。
自分はその時、瞼に熱いものが込み上げていた。
目が……目が熱い……視界が赤く染まって……光が……光が消えていく…………。
焼けるような激痛と共に、喉を突き破るような絶叫が出た。
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