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「やっと思い出した……お前が僕の目を」
志季はいよいよ、にんまりと顔中に笑顔を広げて、
「そうだよ。あれは軽率だったと思う。愚かにも情動に駆られてしまったんだ。でも、僕の気持ちも分かってほしいな」
「気持ち?」
「お前たちがのうのうと暮らしていた時、僕は一人地下倉庫で耐えてきた。自分が普通じゃないからいけないんだって……。でも、なんだよ。お前たちだって僕と同じように普通じゃなかった……。葉砂はそういうところ賢かったよ。僕を見習って、自分の能力を隠してきたんだからね」
「だからって、人を傷つけていいわけじゃない」
「なんだい? 僕に説教をするのか。弟のくせに」
口許を乱暴に掴まれる。
「うん、でも良かった。目許の傷跡は綺麗に無くなっているね。お前の美しい顔が無事で良かった」
凍砂は志季の手を弾き、
「お前が、サイコビーストを生み出してるのか?」
「サイコビースト?」
僅かに考えるように首を捻ってから、
「ああ、バケモノのことか。そうだ。僕が生み出した」
「なんでそんなことを!」
「決まってるだろ。いらないモノを掃除するためさ」
「掃除って……。お前のせいで、どれだけの人が犠牲になってきたと思うんだ!」
「犠牲ね……。僕はこの世の中をより良いものにするために奉仕活動をしてるだけさ。この世にはいらないモノが増えすぎたからね」
志季はフードをかぶり直し、凍砂に背を向ける。
「おい、まだ話は終わってない!」
「あ、そうそう」
彼はそう云って、人差し指を立てるとこちらに向き直り、
「父さんのことだけど」
「え?」
「父さんは葉砂の手によって帰されたことは知ってる?」
「何云ってんだよ。父さんは過労による心不全で――」
「そんなこと信じてるの? 凍砂、お前は本当に何も知らないんだね。葉砂もだけど、彼も隠してるなんて酷い奴らだ」
志季はサイコビーストと遣り合っている明日馬の方を見やる。
「凍砂、忠告しとく。人間なんてものはみんな嘘つきで、愚かで、残酷な生き物だよ」
凍砂は眉をひそめる。
「ああ、あと最後にもうひとつ。さっき、お前に贈り物をしておいた」
「贈り物?」
「今月は僕の誕生日なのに逆に贈り物するなんてね……。だから、もう僕の邪魔はしないでくれよ。バケモノをほっておくんだ」
「そんなこと承諾できるわけないだろ!」
「これは最終警告だ。もし、僕の恩を仇で返したら、次は本当に死んでもらう」
志季はそう戒めてから、唇の端で薄く笑い。
「じゃあ、もう行くよ」
そう云って反対を向くと、悠然と凍砂から離れていく。
「おい、どこへ行く!」
「まだやらなくちゃいけないことがあってね」
「待て!」
しかし、志季はその言葉に答えず、その場から高く飛び上がると夜の街へ消えていった。
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