贖罪

3/8
前へ
/76ページ
次へ
 凍砂に覆いかぶさり、やつの恐ろしい唸り声と、ワニのような口が開かれた。ギザギザの幾本もの鋭い歯が目の前で剥き出される。 (光は……光を掴み取れば…………)  だが、なぜかそいつには光がなかった。 (なんで……)  魂が入っていない!? (そんなことがまさか……)  サイコビーストが大口を開けた。背筋が凍り付く。これで終わりなのか。こいつに喰われて、死ぬのか。と、死を覚悟したとき。  パンッ!  どこかで何かが弾かれるような音が聞こえた。同時に、サイコビーストの頭が吹っ飛ぶ。  上体を起こし、音のした方を見ると血だらけの明日馬の先に、何かを構えて立っている唯人の姿があった。 (ピストル?)  光を放つピストルのようなものを掴んでいる。 「早く、今のうちにサイコビーストを帰すんだ!」  唯人が叫ぶ。 「唯人、お前……」 「早く!」  顔が再生したサイコビーストがまた襲い掛かってきた。  凍砂はギリギリのところで、やつの攻撃を交わすとまた、パン! パン! と何発かの銃声と光る弾丸がサイコビーストの胴体に命中する。苦しそうな喘ぎ声が街に(とどろ)く。  ――凍砂。今よ……。  また、葉砂の声が身体の内側から聞こえてきた。  視界が光に包まれ――そして、サイコビーストが溶け始める。恐ろしい呻き声を上げながらそのまま跡形もなく消えていった。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加