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すぐに唯人が駆けつけてくる。
「唯人、なんで……怪我は!?」
「もう、傷口は塞がってる。それにこのピストル、俺が作り出したみたいなんだ……。サイコビーストの姿も見えるようになったし、これが前に保健室で云っていた能力だよな?」
凍砂は瞠目する。
驚きのあまり、言葉が出てこない。
(まさか、あいつが云っていた贈り物ってこのことだったのか?)
普通の人間なら、あの出血量からすると助からない。しかし、能力を与えれば人間の数倍の再生能力が備わる。
(あいつにも葉砂と同じように人に能力を与える力が……もしかして、あの口づけは、能力を付与するための行為だったのか)
ただ、志季からすれば厄介な相手になるだけだ。何もメリットがない。
(だから、恩を仇で返すなよと云っていたのか……)
その時、何かが肩に触れた。
「おい、そうなんだろ?」
唯人の手だ。何も云わない凍砂を見て、唯人がもう一度尋ねてきたのだ。
「そうだ。魂を物質化する能力……。それと、人間の数倍の再生能力とジャンプ力が備わるんだ」
「やっぱりか。でも、これ凍砂がくれたんじゃないよな?」
「ああ、さっきの黒ずくめの男だと思う」
「でも、あいつは敵だろ? どうして俺を助けたんだ?」
凍砂はその問いに悄然として首を横に振った。
「二人とも大丈夫か!」
明日馬も駆け寄ってきた。
「はい……」
「さっきのフードを被ったやつは誰だったんだ?」
「サイコビーストを生み出してるやつでした」
「あいつが……。素性を明かしたりしたか?」
「はい、僕の兄でした」
「あ、兄!? 葉砂からはそんな話聞いてないぞ」
「僕もです。兄の存在すら知らなかった……」
「兄妹だったなんて……。そうか、だから葉砂はあんなにも詳しく……」
そこでおりしも、遠くから救急車とパトカーの音が……。
「とりあえず、ここを離れた方がいいな」
「あの、火浦さん」
「どうした」
「火浦さんもまだ、僕に隠していることありますよね」
「隠してること?」
「葉砂は父さんの魂を帰したんですよね」
明日馬ははっとしたような顔をしてから、視線を地面に泳がせた。
「そうなんですね」
「ここはまずい。一先ず移動しよう」
「火浦さん!」
「とにかく今は移動が先だ」
「分かりました。でも、あとでちゃんと話してもらいます」
凍砂はぴしゃりと云う。
「ああ」
明日馬はうなずいてから、
「唯人くんだったかな? 君もここを離れた方がいい」
「え、でも凍砂は」
「凍砂くんは俺がちゃんと家に届けるから、安心してくれ」
そう云うと、明日馬は凍砂を抱きかかえ、その場から高く飛び上がった。
すると――彼に触れた瞬間、また脳裏に映像が流れ込んできた。
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