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今度は浜辺だった。夕陽に染まる赤い海。穏やかなさざめきの音。
この場面は、よく夢に出てきたシチュエーションだ。
そんな中を葉砂と明日馬が二人並んで歩いている。他には誰も見当たらない。
凍砂は見せられているこの光景に胸騒ぎを覚えた。嵐の前触れのような……。心が揺さぶられていく。
「君のことが好きだ!」
明日馬の突然の告白。
しかし、葉砂はそれに反応を見せず、淡々と先を歩いていく。
「葉砂、待てよ!」
明日馬は駆け寄り、彼女の腕を掴む。そして、自分の方を向かせ、
「愛してる! 苦しいんだ、君を思うと」
「だから?」
「だ、だから……君も同じ気持ちなんだろ?」
葉砂は掴まれていた手を払う。
「やめてよ。明日馬さんと付き合うとか無理だから……」
「でも、あの時、私を守ってって……キスしてくれたじゃないか!」
「あれは能力を付与するのに必要だったからよ」
「俺は、君が好意を持ってくれていると思ったから!」
「悪いけど、明日馬さんのことはそんな風に見れない」
「騙したのか……」
「騙す? そんなことしてない。ただ、明日馬さんが勝手にそう思っただけでしょ?」
「なんでそんなことが云える……」
「え?」
「酷いじゃないか!」
「酷いって云われても、私だって困る」
「なあ……お願いだ……」
「ごめん、明日馬さんの気持ちには応えられない」
それでもあきらめきれない明日馬は懇願を続ける。然れども、葉砂の答えは一緒だ。
すると俄に、明日馬は興奮状態に陥り、しまいには葉砂の細い首を両手で掴むと、押し倒した。
「なぜだ! 俺のこと好きなんだろ!? じゃなきゃ、あんな顔して守ってなんて云う筈がない」
「だ、だから云ってる、でしょ……」
指先が首にめり込んでいく。葉砂は明日馬の腕に爪を立てながら藻掻く。
「た、助けて……」
「君が俺のものにならないなら……殺してしまった方がいい」
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