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馬乗りになり、明日馬の首を強く絞める。
「よくも葉砂を! 許さない! お前だけは絶対に許さない!」
「す、すまなかった……」
「謝るなら葉砂に云え! 死んで葉砂に謝って来い!」
明日馬は既に抵抗してこなかった。殺してくれと云わんばかりに無抵抗である。
「信じられない! こんなことしておいて、よくも仲間だと云えたな!」
「愛していたんだ……」
「愛してれば何やっても許されると思ってんのか!?」
「そんなことは思っていない。だから、死んで償う。君の手で殺してくれ……」
「分かったよ。お望み通り殺してやる!」
思い切り指に力を込めながら、凍砂は涙を流す。顔を歪める明日馬。
――刹那、葉砂の顔が脳裏に浮かび上がり……。
凍砂は、間もなく首から手を離すと、彼の胸許を何度も叩く。明日馬は苦しそうに咳き込みながら、殺してくれ! と叫んでいた。
「なんで……なんでだよ……なんで!」
わんわんと声を上げて泣いた。
夜の海はそんな凍砂の心を絶望の淵へと飲み込んでいく。
身体が闇に沈んでいく。心が破砕され、鉛のように重い憎悪の塊が自らの身体を海の底へと沈ませていくようだった。
一度、壊れた形は決して元には戻らない。歪なまま、硬化してしまうのだ。
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