バケモノ

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バケモノ

 今でも、母に首をしめられている場面が、僕の記憶には色濃く残っている。それは、ちょうど五歳になった日のことだった。  どうして、そんな惨劇が起こってしまったのかというと、僕が普通じゃないから。  母はよく「あなたは普通じゃない!」と云う。  普通……普通ってなんだ? ずっと考えてきた。頭の中で反芻(はんすう)しながら何度も何度も思考を繰り返してきた――でも……。  いくら、その言葉を咀嚼(そしゃく)したところで――結論、人それぞれ捉え方は違うし、誰の普通が正しいかなんて考えるだけ無駄だと分かった。この世に完璧な普通なんてものはないのだから。  そんな、ありもしないものに囚われていても、答えは見つかる筈もなく……。正解のない誰某(だれがし)が決める普通枠に収めようとする母が、ずっと理解できなかった。同じ人間は決して存在しないし、銘々(めいめい)違っていいのに。そして、それらの中でも僕は際立った特徴を持って生まれてきた。――ただ、それだけのことであり、僕にとってはそれが、いわゆるであるわけだから。  物心ついた頃から、人に触れると自分の知らない情景が脳裏に映し出されてくると思っていた。明らかに自分のことではなく、触れた人間の記憶。日々の感じたことや、目にしたこと、彼ら自身の浅ましい行為や、悪行も、断片的に映像として流れては消え、流れては消え……。それらを口に出した時、人はゾッとしたような目で僕を見る。――幼少期は見たものをそのまま口にする。自制が効かない――皆が皆、不気味なものを見るように顔をしかめるのだ。  そして、そんな大人たちは、僕の行為を子供だからといって大目に見ることはしなかった。
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