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雫side
嫉妬に狂った目は何度も見てきた。
あの人に特別視されることを羨んで、取るに足らないこの席を欲する。
決してイイモノではないのに。手に入れたら、絶対に投げ出したくなるというのに。
腕を引かれたまま校舎を歩く。
じろじろと興味深そうに見られるのはここでも同じみたいだ。一つ下のさらりと揺れる黒髪を眺める。今はもう、この人に“兄”の面影はない。
先導していた足がぴたりと止まる。いつのまにか野次馬はいなくなっていて薄暗い部屋に案内された。ガラス張りに見えるのは放送の為の大型機材。
どうやら此処は放送室らしい。
「単刀直入に言うけど、退学してくんない?」
傍らにあった椅子に腰掛けて足を組む。それが人にものを頼む態度か、とは死んでも言えない。本家の息子である以上、この人に逆らうことは出来ないのだから。それでも、この学園なら。実力重視の風紀に入ってしまえば。ボクは自由に行動できる。家のしきたりに関わらず、この人を組み敷くことだって。
「イヤだよ。風紀に入るって署名しちゃったし。幾ら義兄さんでも、委員長との対立は避けたいでしょ?」
ぴくりと眉が引き攣るのが見える。
「.......おまえさぁ。ナニ企んでんの?俺の邪魔しないでって言ったよねぇ」
「何も企んでないよ。ただこの学校に入りたかっただけ」
「ふぅん。ーーお父様を脅してまで?」
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