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ガラリ。
教室の扉が開いてクラスの意識が自然と向く。
その人を見て、比喩でもなんでもなく息が止まった。
腕を組んで壁にもたれかかる美しいヒト。
恐らく彼を、知らない人間はいないだろう。
不機嫌そうな流し目ときつく結ばれた唇。
すっかり静まり返った教室で、周りの視線を一身に浴びながら彼が一直線に歩き出す。
自然と避けていく人だかりの先に、自分がいたらどれほど良かったか。何も期待したのは一人だけではないはずだ。
ワンサイズ上のパーカーから白い指先が小さく覗く。掴んだのは、学年一番の御曹司でもなくて、親衛隊持ちのチャラ男でもない、新入生代表に選ばれた、一人の男。
「ちょっと来て」
美しい君に見向きもしなかった男の腕を掴んで、もう用はないとばかりに教室を後にする。
話しかけようとした御曹司を無視して、意味ありげな視線を寄越すチャラ男を睨んで。
代表に選ばれたからなんだ。
調子に乗ったんじゃねぇぞ。
嫉妬に狂いそうな目で腕を引かれる男を見る。
それなのに。
ふ、と振り返った男が嗤う。
心の底から哀れそうに。
皮肉じゃなくて、本当の意味で。
気づかない人間は不満を募らせた。
けれど、僅か数人、その不自然さに気づいた者たちがいた。
風が吹く。
嵐の前の海風が。
このSクラスに間もなく波乱がもたらされることを、まだ誰も知らない。
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