ブーケ

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「ウミガメのスープって知ってる?」  そう彼女が聞いてきたのは、一時間ほど前だったかーー 「私あれ大好きで、ちょっと作ってみたの」 『ある男が愛する女性から、花と男の好きな珈琲をプレゼントとして受け取った。その三日後男は息をしていなかった。なぜか?』 「はは! なんだよそれ! 殺されたんじゃん! クイズにもならないって」 「やっぱりそう思う? あれ考えようとすると難しくて」 「どうせ花か珈琲に何かしたんだろ」 「なんだと思う?」 「珈琲に毒?」 「ざんねん、花でした!」 「花?」 「そう! 花がひらくと毒が拡がるようにしてあったの」 「そんなこと出来るわけ?」 「それが可能になる毒があるってテレビでやってたよ」  「テレビでやるなよ……」 「本当そうだよね。でね、その毒、なんかじわじわ苦しくなって、最期は息が出来なくなるんだって。怖いよね」    彼女は怖いという感想とは真逆に、とても綺麗に微笑んでいた。  その後すぐに彼女は帰っていった。  しばらくしてふと、そういえば彼女が持ってきた花と珈琲が目に入った。  花は彼女が駅前でもらったと言っていた。  珈琲はストックが無くなったので自分が頼んだものだ。  水が張られたグラスに一輪の花。  水につけて暖かい部屋にあるからか、彼女が挿した時より心なしかひらいている気がする。  寒気がした。  彼女はとてもおっとりした大人しい女性で、自分が何をしても怒らない、そういうタイプだ。 「あいつがそんなことするわけ無いよな」  冷えきった珈琲で少し緊張気味の喉を潤した。  先ほどから何となく苦しくなってきていることに気づいている。  心臓か肺か。  とにかく胸の辺りが苦しくて重たい。 「おいおいおい、待ってくれーー」    じわりじわりと暗闇と恐怖が体中を侵食していった。    
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