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『ノスタルジック・ファンタジー』
ゆら
「王都消失」
ザグ ザグザグ ヒヒヒヒーン
耳をつんざく喧騒を伴い、騎馬の一団が整備された街道を、西の方角を目指して突き進んでいく。
馬上の騎士達は、皆甲冑に身を包み、ただ、それぞれの乗り馬に鞭をくれていた。
先頭を進むのは、巨大な槍をその左手にした男で、後ろの騎士達よりも一回り体の大きな男である。灰色の甲冑に身を包んだその男は、いつもその手からその自慢の巨大な槍を手放さない事から、「槍のグレン」と呼ばれていた。彼の後ろに付き従う数十騎の騎士達は皆真っ黒な甲冑に身を包んでいる。
城へと続く街道を、近道をする為に騎馬が一騎しか通れないような細道を、そして道さえない森の中を、時に砂埃をたてながら、目の前に立ちふさがる木々の枝々を体に当たるに任せつつ、その騎士の群れは疾駆し続けている。
「突如として、謎の部隊に王城が襲撃され、あろう事か、王城もろとも、そこにいたすべてのものが消え失せてしまった。」
グレン達が、辺境の反乱を鎮める為に出かけているその戦陣に、突如としてもたらされた寝耳に水の情報であった。取る物も取らず、王城までの強行軍を行っている、その急ぎの途上であった。
正門へとつながる外堀に掛けられた吊り橋を駆け抜け、最後の坂を駆け上がる。その目の前の正門の向こうにはあの懐かしい王城がグレン達を待っているはずであった。
槍の石突きで、思いっきり正門の重い扉を開け放つグレン。
その後を必死に追いかけてくる騎士達の前に立ちはだかるように立ち尽くすグレンが見た物は、まるで焼け野原の様に草木一本残っておらぬただの荒野、ただそれだけであった。
「俺達の城は、俺達の帰る場所は、一体どうなったんだ。」
頭を抱えるグレン。
次々に到着する騎馬隊が手綱を引いて急停止するその前で、騎士長グレンは跪き、その太い両腕で、力一杯何もなくなった地面を叩きつけていた。
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