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黒歴史
人には誰しも忘れられない嫌な記憶というものがあるだろう。
そう。いわゆる…『黒歴史』というものだ。
忘れたくも忘れられない…因みに私にはある。
それは、ある夏の日。ずっと責められ続けている友達を庇った時の事だった。
「ちょっと。もう辞めなよ。」
「はぁ?何?あんた話聞いてなかったの?」
「聞いてたけど。」
「バカなわけ?こいつは、夏海の上履き盗んだの。まさかそれさえも解らない?」
そう言って嘲りの表情を浮かべたクラスメイト達に私は言った。
「あんたこそ解んないの?」
「何が。」
「奈々実さんは上履きを盗む事が出来ないのよ。」
「はぁ?」
「彼女はその日病院に行くと言って車で早く帰ったでしょ。」
「そうよ。車の音がうるさかったから覚えてる。だから私はあの子しか居ないって…」
口籠もった彼女に微笑みかける。私はこの瞬間が一番好きだ…った。
「そう。あの子は親がクラスまで来てた。しかも次の日は休日で上履きは持って帰るから職員用玄関からそのまま車に乗るだけ。」
「で、でもどこかで!」
「そう思うのは勝手だけど車の音はさほど遅くなかったよ?下駄箱の二号館から職員用玄関は走っても五分はかかる。」
彼女の生唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。
彼女は恐る恐る奈々実さんの方を振り向くと言った。
「ご、ごめんなさい」
「ううん。私、こういうの多いから。気にしないで。」
奈々実さんには友達が出来たようだけど、逆に私には誰も近づかなくなった。
「あの子ちょっとキモいんだよね」
「まじ?」
「なんか上履き盗んだ人違うとか何とか言ってマジレスしたんよ」
「あ、それは引くかも。」
そんな事を聞くのは日常茶飯事であった。
それからと言うもの私にはこの事件が一種の黒歴史となっている事をこいつは知らない。
そう思いながら横目で隣でケーキを注文するのほほん刑事を睨みつけたのであった。
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