のほほん刑事は万年係長

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のほほん刑事は万年係長

私が人より推理力があると解ったのは中学一年の時だった。 本当は昔から薄々感じてはいたのだが、 中学一年のある日、そのもやもやとした感情は確信を帯びた。 『なんであんな風になったんだっけ…。』 私は頼んだチーズケーキを小さく切って口に運びながら考えた。 その日は叔父が近くに用があったついでにうちに来ていた。 「兄さん本当に警察官なの?」 「この頃成果も何も聞かないけど。」 お風呂から上がると母と叔父が晩酌を交わしていた。 「や、やってるよ!?ただ…」 私はクスッと笑って慌てて口に手を当てた。 母の言葉にしどろもどろになっている叔父はいつ見ても何だか面白い。 「ただ?」 「俺に推理力が無さすぎるんだよ…」 溜息をつきながら言った叔父に次は母が溜息をつく番となった。 「はぁ…」 「何だ!その溜息は!!」 「実の兄が思っていたよりダメ人間で心底ガッカリしただけ。何でもないわ。」 平然と言ってのける母に叔父は苦虫を噛み潰したような顔になる。 「それ何でもなくないだろ…じゃあお前は解けるのか?密室殺人事件の謎。」 急に出してきたミステリー定番感の伴う事件に私は一言も漏らさぬよう、聞き耳を立てた。 「これで解けたら兄さんのダメ人間は確定ね。ようし。受けて立とうじゃないの。」 母はマウントを取ろうとニコニコしている。 「じゃあいくぞ。」 そう言って話し始めた叔父さんの話はとてもとても長かったのでまとめてみると、 ・あるアパートで殺人事件が起こった。 ・部屋はとんでもなく散乱していたにも関わらず、 下にいた大家さんは全く気づかなかったらしい。 ・因みに大家さんはこの時作りすぎた煮物をアパートの住人に配っていた。 ・第一発見者は大家さん。煮物を持っていった時に中からうめき声が聞こえたという。 ・凶器は後頭部の打撲痕から石、またはバットのようなものであると仮定されている。 ・住民全員からアリバイは取れている為、アパート外の人物の犯行と見ている。 ・しかし、防犯カメラには大家さんしか映っていない。 話を聞き終わった瞬間に母が仮説を口に出した。 待つんだ母よ、『秘すれば花なり秘せずは花なるべからず』と言うであろう。 「三木さんじゃない?大家さんが行った後に犯行に及んだとか。」 犯行に及んだとかかっこつけてる感は否めないものの、理屈は通っている。 「それはないな。 アパートにはエレベーターしかなく、ついた時に大きな音がする。 三木さんは一階、被害者は2階だ。」 そういうのは長い話にちゃんと盛り込んで欲しかった。 「そういうのは先に言ってよ。」 母も同じ事を思ったらしく、そう口に出す。 いや、待てよ?これ、ワンチャン解るかもしれない…。 「大家さんだよ。」 気がつけば口から結論が出ていた。 だめだ。秘すれば花は世阿弥しかできない神業だ。 そう思った途端口から推理が溢れてきた。 「部屋は散乱してたんでしょ。 て事は暴れたに違いない。 でも大家さんには聞こえなかった。 今の話を聞く限り防音アパートなんじゃない?または嘘か。」 「あと、大家さんが煮物を配っていたのだとするとエレベーターに乗っていた誰かに会ったと証言するのが普通でしょ。」 「ここで矛盾が生まれるね。まず防音のアパートでうめき声が聞こえるのは変。」 「あと、防犯カメラの映像には大家さんしか映ってないのも理屈が通るよ。」 一通り言い終わると二人はポカンとしていた。 そりゃそーだろう。急に娘がやってきて自分の推理を語り出すんだから。 「え、えぇ。」 叔父さんの最初の一言はそれだった。 二人が驚いているのとは真逆に私は小学校の時の黒歴史を思い出して穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。 『またやってしまったぁぁあ!!』
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