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「さっきの話。俺、どんなに浜が仲をとりもってくれてもその女子と付き合うつもりはない」
「ちょっとだけ悩んであげる余地もない?」
「悪いけど。俺、好きな子がいるんだ」
「それってもしかしてさっき追いかけた『中学の同級生』さんだったりして」
「うん」
「わかったよ。協力の件は俺が責任を持って断っておく。野々宮は二次元に嫁がいるから三次元の女には興味ないみたいだって」
「それだけはマジでやめろ」
俺は浜の背中を軽くどついてやった。冗談めかしてはいるが温かい浜の優しさに感謝してもしきれなかった。
――好きな子がいる。
言葉にすると不思議な感覚に見舞われる。温かいような、くすぐったいような、痛いような、苦しいような。七瀬みくるのことを考えると、そんな何本もの糸に複雑にからめとられるような感じがする。
今頃七瀬はどうしているんだろう。今も自分で洗濯しているんだろうか。誰かに馬鹿にされていないだろうか。父親とうまくいっているだろうか。俺のことはもう好きじゃないだろうか。
本音を言えば行かないでほしかった。
でも、あの日、高校に落ちてズタボロになった精神状態で七瀬みくると会っていたら、俺たちはお互いのことを壊してしまうところだっただろう。
高校も行かず中卒で働き口を苦労して探して生きながら、ともにいられるはずもない。行き着くところはひどいケンカ別れか心中か。
だから、「さよなら」という決断をしてくれた七瀬みくるには感謝している。
「さっさと新しいグッズ買って帰ろうぜ、浜」
持っていないものは数えない。今あるものを大事に生きていくんだ。
俺は前を向いてショップに向かって歩き出した。
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