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そうして中学卒業から五年がすぎ、俺は二十歳になり、成人式を迎えた。
義父が買ってくれた新しいスーツを着て成人式の会場に向かうと、すでに大勢の同級生が出身中学校ごとに集まって歓談していた。
「懐かしー。俺のこと覚えてる?」
真っ先に俺に気づいたのは高橋だった。ぼっちになることも覚悟していた俺はほっとしてそこに集まっていた人の輪に加わった。そこには森崎も江口もいた。
俺たちは久しぶりに会った友人同士がそうするように近況報告と思い出話に花を咲かせた。
森崎は大学進学、高橋は都内の美容学校に通っていて、江口なんか就職してもう子供までいるという。
俺が工業系の専門学校に通っていることを話すと、三人は「元気そうでよかった」と口々に言った。中学の卒業式では目も合わせてくれなかったのに、あの時のことは何もなかったみたいにされていた。
楽しかったが、俺が成人式に来たのはこいつらに会うためではない。
七瀬みくるが残していったあの手紙の約束を、俺はこの五年間一度たりとも忘れたことがなかった。
『五年後の成人式で会いましょう』
七瀬みくるはあの約束を覚えているだろうか。
会話の最中、俺は人ごみの中に何度も視線をはしらせた。女子たちは煌びやかな振袖とアップスタイルの髪型とメイクで誰が誰だかすっかりわからなくなっている。どれが七瀬みくるなのか、そもそも彼女は来ているのかを探すのはかなり難しいことのように思われた。
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