〇エピソード5 一足早い春の訪れ

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「七瀬みくるって今どこにいる?」  俺は目の前の彼女に詰め寄るように聞いた。彼女は「わかんない」と気圧されたように小さな声で答えたが、迷いながらも外を指さした。 「会場を出て行ったと思う。たぶん駅方面」 「わかった。ありがと」  気づけば俺は走り出していた。合格発表の日のように、ショッピングモールで七瀬みくるに似た人を見つけたときのように。  俺が走り出すのはいつだって、七瀬みくる、ただひとりあいつのせいだ。 「もうすぐ成人式始まるけど」  森崎が声をかけてくるが俺はそれに手をひらひら振って答えた。 「悪い。俺、成人式パス」  森崎がぽかんと口をあける。 「成人式パスって……お前いったい何しにきたんだよ」  俺は胸を張って答えた。 「七瀬みくるに会いにきたんだよ!」  会場を飛び出して駅のほうに向かう。右手には七瀬みくるの本を握り締めて。
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