○エピソード1 七瀬みくるとキスしてみてよ

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○エピソード1 七瀬みくるとキスしてみてよ

 相手に対して「何考えてるのかよくわかんないよね」と言うとき、その言葉がもつ意味はたいてい二つのうちのどちらかだ。  一つ目は、「何も考えてなさそう」という皮肉だ。よく俺に向けられる「小村って何考えてるのかよくわかんないよねー。幸せそう」という言葉は間違いなくこちらの意味だ。幸せそうっていう付け足しの一言がいい味出してる。要するに、バカだって言いたいわけだ。  二つ目は、言葉どおり、心の内側が読めないという意味だ。ミステリアスで自分のことを話したがらなかったり、言動がめちゃくちゃで理解の範疇を超えているときに使う場合はこちらに入る。  そして、今俺の目の前にいる女は、その後者の「何考えてるかよくわかんないよね」に属するタイプだ。 「なに」  太陽も凍っちゃいそうなくらい冷たい声が俺の耳を貫いた。  目の前の女、七瀬みくるが両目をかっぴらいて見つめてくる。俺のほうが十センチ以上身長が高いため、七瀬みくるは必然的に上目遣いになるのだが、その仕草にはかわいげの欠片もない。  はっきり言って美人の真顔は怖いのだ。
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