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【Act.08】
【アッキー】と音信不通になった私は、道標を失ったようだった。
「会いたい」が【アッキー】の中ではNGワードだったのか?
会いたくなければ、そう言ってくれれば、無理強いはしないつもりだった。
それなのに、現実世界も【SEVEN's GATE】の世界からも居なくなった。
一方的に信頼していただけに、ショックだった。
毎日のように時間を忘れて話していたから、既に私の中では、居て当たり前の存在になっていた。
自分でもびっくりするぐらい、心が空虚になった。
まるで、振られた気分……。
そう思って気づいた。
私は【アッキー】に恋をしていたのかなって……?
初恋の人の代わりに相談に乗ってくれて、親身に聞いてくれて、こちらが真剣だとわかると、すぐに手を差し伸べてエスコートするように、優しく導いてくれた。
今思えば……私の初恋の人にそっくりだ。
だから、ドキドキしたんだ。
もっと彼を知りたいと欲が出たんだ。
もしかして、姿や仕草も似てるかも……と期待したんだ。
それを確かめたくて、会いたくなったんだ。
それだけ、【アッキー】の存在は私の中で大きくなっていた。
【アッキー】が居るから渋谷にやって来たのに、その彼が何処に居るのかさえわからなくなると、心細く……急に不安になった。
でも、現実は【アッキー】と連絡がつかなくなった事で立ち止まるわけにも行かなくて。
1人で生きて行くと決めた以上は、悲しんでばかりも居られないのが実情だった。
だから、空虚な気持ちを抱えつつも、とにかく、仕事を見つけなきゃならないから、片っ端から面接を受けた。
けれど、成人した24歳だと言っても、名前も住所も偽り。 資格もなし。
身元を証明する為の車の免許さえ持ってない。
私がいくら誠実にお願いしても、身元保証としての履歴書に嘘を書き並べる人間は信用出来ないと、日中のバイトは尽く断られた。
意気揚々と私の人生は私の物だと大口を叩いて家出したのに、現実は、自分が思うほど価値のない人間なんだと思い知らされた。
【アッキー】が居てくれたら……。
【アッキー】と話がしたい……。
【アッキー】に……会いたい……。
縋るモノが何もなくて、ただただ無いものねだりのように想いが募って、心が折れそう……いや、折れた。
知らない土地でぽつんと立ち尽くすしかなくて、家出は間違っていたんじゃないか、と少しの後悔と大きな寂しさが、あっと言う間に挫折と言う言葉を紡いでいた。
かなり凹んだ。
人恋しかったのもあった。
その日も面接で落とされて、行く当ても無く、ただただボーッと御犬様の背中をベンチに座って眺めていた。
そして、そんな空虚で無気力な私に、ある男が声を掛けて来た。
――「ねぇねぇ、今、時間ある?」
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