Chapter.01 カモ

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【Act.11】 席に着くと、彼と入れ替わるように女性スタッフがカートワゴンを引いて現れ、アンケート協力のお礼の品だと差し出したのは、ハングル文字が躍る化粧水と保湿クリームのセット。 昨今の韓流人気にあやかるように、日本ではまだ手に入らない商品だと言われ、美容大国である韓国ではアイドルの女の子や有名女優たちがこぞって使っている商品だと説明された。 そして、読めもしないハングル語のパンフレットを渡され、断るより先にサービスだと言って、百貨店の化粧品売り場にあるような機器で肌チェックをされる。 そして、ため息を1つ零して言われた。 肌年齢が実年齢より遥かに老いていると……。 けれど、これを使えば大丈夫だとワゴンの二段目から取り出したのは、フェイスケアの美顔器と専用スキンケア用品一式。 通常価格240万のものを会員登録すれば半額の120万で手に入れる事が出来ると言う。 このままだと老化の進行が加速すると言われ、今のうちにケアしないと大変だよと、綺麗に描かれた眉を潜めて、また、ため息を零された。 でも、240万の物が120万だと言われても、誰だって即決するわけがない。 だから、老化が始まってると言われても実感がないから、と断ろうとした。 すると、女性スタッフは 「皆さん、そうおっしゃるんですよ。でも、話を聞くのは無料ですから」 と言うと、今度はタブレットを取り出し、その美顔器の構造や従来品との違い、即効性のあるスキンケア用品との組み合わせを30分以上プレゼンした。 さすがに、私も聞いていて飽きて来たし、話を聞くだけと言っても、終わりが見えずに延々と喋られてる気がした。 それよりなにより、辺りを見回しても、私をここに連れて来たケントの姿が見当たらない。 だから、「考えます」と関西で言う所のお断りをしたのに……。 女性スタッフには通じなかったのか 「だったら、ケントくん、呼んで来るから、彼にネイルして貰いながら考えたら?」 と、知らないうちに友達になったかのような気安い口調でそう言うと、こちらの返事も待たずにスタッフルームと書かれた入口横の部屋へと入って行った。 でも、これ以上待たされるなら、もう帰ろうかと思った矢先、またあの人懐っこい笑顔を見せてケントは現れた。
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