Chapter.01 カモ

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【Act.14】 その言葉が……仕留められた瞬間だった事は、言うまでもなく。 私は、ケントの人懐っこい笑顔と虚しさが沁み込んだ心、そして、マニュアルありきの芝居掛かった言葉を120万で買った。 しかし、それだけならまだしも……血迷ったかのように捕獲されたゲージの中で、私は金の卵を産んでしまう。 薦められたクレジット決済じゃなく……現金払いの選択をした。 身元を伏せて潜んでいる以上は、銀行に口座を開設することさえ出来ず、ましてや、分割払いのカード決済なんてすれば一発で足がつくのが目に見えてる。 それなのに、そう理解しているはずの頭は、ケントの撒き散らす色香に逆上せて真っ当に機能しなくなっていた。 もちろん、騙されてる、詐欺られようとしてるなんて、微塵も思わず。 咄嗟に現金をチョイスして、肌身離さず抱えていたバッグの中から、長財布と小出しに引き出して書類用のクリップで留めていた100万円の束をテーブルに置いた。 そんな無防備にも程がある私の行動に、捕獲完了の知らせを受けて契約書類を持って来たスタッフのおねぇさんのみならず、ケントや1つ席を空けて座っていたお客さんまでもが、取り出した異形なお札の束に目を見張っていた。 そんな人々の反応を見て私が思ったのは……。 ―― 現金の力って凄い。 と、その時、生まれて初めて思った。 そして、取り囲む面々の目の色が変った事で……勘違いした。 お金があれば、私を見る人の目は変わるんだって……。 同情の余地も無い、無知なバカの所業だった。
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