64人が本棚に入れています
本棚に追加
【Act.17】
そんなケントとの距離を感じながら、一向に職も見つからなくて、1年は無職でも困らないと思っていた資金は、ものの2ヶ月で底を尽き始めた。
だから、彼に誘われれば会うけれど、以前のように勧められるまま高額な美容用品は買えずに渋ると、ケントは、時として怒り、時として泣き落とし、時として金払いのいい彼女が他に居ると私の嫉妬心を煽るように匂わせて強請った。
そして、クリスマスムード一色になる季節を迎えた頃、1本の電話が、緩やかに下っていた運命を加速させる事になる。
『ヒナ、俺、超やべー事しちゃったよ……。まじ、どーしよ……。殺されっかも……』
電話口のケントは声を震わせていた。
その上、「殺される」なんて物騒な事を口走った。
それだけで、私の方が冷静さを欠いて、ただ事じゃないとパニックになった。
『どうしたの?! 何があったの?!』
『明日のクリスマス・イブ、ヒナとドライブデートしようと思ってさ、友達に車借りたんだけど……事故っちゃって……』
『えっ!? ケガない? 大丈夫なの?』
『身体はさ、全然、大丈夫なんだけど……。 事故った相手って言うのが、反社っぽくて。 俺の車じゃないから保険屋呼べねーし、使えねーし……このままだったら、俺、まじ、やべぇー……』
出会ってから3ヶ月。
ケントは、この辺が潮時だと思ったらしい。
彼的には、私の最近の金払いの悪さから、もしかして薄々、詐欺られていると勘づき始めたと思ったのか、それとも、大見栄を切っただけのただのなんちゃってお嬢だったんじゃないかと疑い始めたのか……。
とにかく、最悪、詐欺だと知れて金を返せと、面倒な事になる前に手を切ろうと思ったらしい。
だからこそ、ケントは大きく勝負に出た。
最初のコメントを投稿しよう!