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Prologue...
【2 FACE】―――
白磁のような
つるんとした光沢のある二つのマスク。
それぞれが、くり抜かれた目に黒の縦線を引き、大きくうねるような唇の輪郭を黒く描き、赤く色を塗っている。
所謂、ピエロメイクと言うもの。
1つは
高慢に口端を上げ、得意げに笑っている顔。
もう1つは
目の端に涙のしずくを描き、口端を垂らして泣き顔を表している。
古代ギリシャの演劇で、野外の広い劇場の端からでも演者の表情がわかるようにと用いられたのが、このマスクの起源とされている。
それがやがて、笑い顔のマスクは『喜劇』を表し、泣き顔のマスクは『悲劇』を表すようになった。
そして、その二つが合わさる事で、人生の悲喜交々が物語を紡ぐ【劇場】を示すシンボルとなった。
その表裏一体を人生に照らし合わせ【2 FACE】と呼ぶようになったのは、メキシコの貧困社会からアメリカンドリームを夢見て渡って来た
【チカーノ】(メキシコ系移民男性の蔑称)と呼ばれる人々。
彼らの信念である、
【Lough now, cry later.】
直訳すれば【泣くのは後だ、今は笑え】
意訳すれば【今、この瞬間を生きろ】
と、強いメッセージ性を表裏一体の2つの顔に込め、身体に刻んだのがチカーノタトゥーと呼ばれるもの。
メキシコ系移民発祥のこのタトゥーは現在、人間の喜怒哀楽、そして、刹那的で既存社会に反発する者の象徴として表現されている。
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