Chapter.01 カモ

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【Act.02】 東京・渋谷 ―― 待ち合わせ場所としては、昔も今も変わらない日本一有名な御犬様の前。 昨夜降った雨が、春の気配を連れてきたらしく、薄着になった道行く人々のパステルカラーが目を引いた。 そんな流れ行く人たちに視線を馳せながら私は、今日のデートの相手を待っていた。 午後6時半に待ち合わせている29歳の会社員。 知り合ったのは、マッチングアプリ。 ネットゲームやソーシャルゲームにハマってて、犬より猫が好きな金融関係のパパの会社でバリバリ働いている……と言う彼。 毎日のようにDMのヤリトリをして、出会って1ヶ月記念だから会ってみたいと誘ったのは私の方。 関西出身で東京には不慣れだとアピールして、楽しいところに連れて行ってと甘えてみせた。 「ヒナちゃん?」 スマホを片手に画面と私を見比べてそう尋ねて来たのは、目線より少し高いだけの小柄な男。 見比べてるのは、バリバリに加工された私の写真だ、きっと。 あなたが……サクマ・コースケくん? 身長178センチと言ってたけど、10センチほどサバを読んでるよね? でも、着ている黒いスーツは【HUGO BASS(ヒューゴ・バス)】 ジャケットは流行りのスリムタイプじゃなく、レギュラーフィットの緩やかなテーパードのウエストラインとパンツ。 小柄なのを少しでも大きく見せたいようだけど、身体に馴染むスーツが売りの【HUGO BASS(ヒューゴ・バス)】の魅力を全力で消しているよう。 髪は、どう言ったらいいんだろ? 黒髪だけど、襟足が長くて全体的にウェーブがかっているアイドルの男の子のような無動作ヘア。 本当に会社員? 年収1000万? 六本木のタワマンの上層階に住んでんの? マッチングアプリのプロフィールとDMのヤリトリから訊いた情報が、次から次へと「?」を付けて頭の中を駆け巡る。 髪型、スーツの着こなし、リュックを背負う姿……。 私が、逆立ちでもしないといけないのかと思うほど、プロフィールやDMの文面から察した人物と合致しない。 けれど……。 嘘つきでも、その素性が怪しくても、呼び出したからにはしっかりと狩るのが私の使命。
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